水質管理目標設定項目とは
現在まで水道水中では水質基準とする必要があるような濃度で検出されていませんが、今後、水道水中で検出される可能性があるものなど、水質管理上必要とされる項目です。
水質管理目標設定項目一覧
平成27年4月1日からフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)の目標値が0.1ミリグラムパーリットルから0.08ミリグラムパーリットルに変更となりました。
番号 | 目標設定項目 | 目標値 | 区分 |
---|---|---|---|
1 |
アンチモン及びその化合物※1 |
アンチモンの量に関して0.02ミリグラムパーリットル以下 |
無機物・重金属 |
2 |
ウラン及びその化合物※2 |
ウランの量に関して0.002ミリグラムパーリットル以下(暫定) |
無機物・重金属 |
3 |
ニッケル及びその化合物※3 |
ニッケルの量に関して0.02ミリグラムパーリットル以下 |
無機物・重金属 |
4 |
1,2-ジクロロエタン※4 |
0.004ミリグラムパーリットル以下 |
一般有機化学物質 |
8 |
トルエン※5 |
0.4ミリグラムパーリットル以下 |
一般有機化学物質 |
9 |
フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)※6 |
0.08ミリグラムパーリットル以下 |
一般有機化学物質 |
10 |
亜塩素酸※7 |
0.6ミリグラムパーリットル以下 |
消毒剤・消毒副生成物 |
12 |
二酸化塩素※8 |
0.6ミリグラムパーリットル以下 |
消毒剤・消毒副生成物 |
13 |
ジクロロアセトニトリル※9 |
0.01ミリグラムパーリットル以下(暫定) |
消毒剤・消毒副生成物 |
14 |
抱水クロラール※10 |
0.02ミリグラムパーリットル以下(暫定) |
消毒剤・消毒副生成物 |
15 |
農薬類※11 |
検出値と目標値の比の和として、1以下 |
農薬 |
16 |
残留塩素※12 |
1ミリグラムパーリットル以下 |
臭気 |
17 |
カルシウム、マグネシウム等(硬度)※13 |
10ミリグラムパーリットル以上100ミリグラムパーリットル以下 |
味覚 |
18 |
マンガン及びその化合物※14 |
マンガンの量に関して0.01ミリグラムパーリットル以下 |
色 |
19 |
遊離炭酸※15 |
20ミリグラムパーリットル以下 |
味覚 |
20 |
1,1,1-トリクロロエタン※16 |
0.3ミリグラムパーリットル以下 |
味覚 |
21 |
メチル-t-ブチルエーテル※17 |
0.02ミリグラムパーリットル以下 |
味覚 |
22 |
有機物等(過マンガン酸カリウム消費量)※18 |
3ミリグラムパーリットル以下 |
味覚 |
23 |
臭気強度(TON)※19 |
3以下 |
臭気 |
24 |
蒸発残留物※20 |
30ミリグラムパーリットル以上200ミリグラムパーリットル以下。 |
味覚 |
25 |
濁度※21 |
1度以下。 |
濁り |
26 |
PH値※22 |
7.5程度。 |
腐食 |
27 |
腐食性(ランゲリア指数)※23 |
-1程度以上とし、極力0に近づける。 |
腐食 |
28 |
従属栄養細菌※24 |
1ミリリットルの検水で形成される集落数が2,000以下(暫定) |
清浄 |
29 |
1,1,-ジクロロエチレン※25 |
0.1ミリグラムパーリットル以下。 |
一般有機化合物 |
30 |
アルミニウム及びその化合物※26 |
アルミニウムの量に関して0.1ミリグラムパーリットル以下。 |
色 |
31 |
ぺルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS) 及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)※27 |
0.00005ミリグラムパーリットル以下。 |
用語説明
※1 : アンチモン及びその化合物
アンチモンは、半導体材料や鉛、スズなどの合金として使われています。
毒性は強く、急性中毒として嘔吐、下痢、皮膚炎など、慢性中毒として心臓、肝臓、腎臓障害などの症状があらわれます。
アンチモン使用工場からの排水が汚染源として考えられます。
※2 : ウラン及びその化合物
ウランは、原子力発電所の燃料として使われている放射性元素です。
ごく微量ですが岩石や海水中にも広く分布しています。
毒性が大変強く、腎臓に蓄積し腎臓障害の症状があらわれます。
※3 : ニッケル及びその化合物
ニッケルは、ステンレスやメッキの原料として使われています。
大量に摂取するとめまい、嘔吐、急性胃腸炎などの症状があらわれます。
工場排水やニッケルメッキからの溶出が汚染源として考えられます。
※4 : 1,2-ジクロロエタン
1,2-ジクロロエタンは、塩化ビニルの原料として使われている有機化学物質です。
過去、地下水で検出事例が多くあったため、水質基準項目の一つでしたが、近年水道水からの検出事例がほとんど無くなったことから、水質基準項目から外され、水質管理目標設定項目になりました。
発がん性の可能性が高い物質です。
※5 : トルエン
トルエンは、シンナー、接着剤、塗料の原料として多く使われている有機化学物質です。
急性中毒として中枢神経系への影響、疲労、頭痛、めまいなど、慢性中毒として運動失調、平衡障害、言語障害などの症状があらわれます。
※6 : フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)
フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)は、プラスチックに柔軟性を持たせるために使われている有機化学物質です。
環境ホルモンとして疑われています。
※7 : 亜塩素酸
二酸化塩素の原料又は分解性生成物です。
オゾン・活性炭で除去できます。
※8 : 二酸化塩素
刺激臭のある赤黄色の気体で、浄水処理過程において主に酸化剤として使用するところもあります。
また、セルロース、紙パルプの漂白剤として使用されています。
※9 : ジクロロアセトニトリル
ジクロロアセトニトリルは、トリハロメタンと同様に水に含まれる有機物と塩素が反応してできる物質です。
毒性が高いとの報告があります。
※10 : 抱水クロラール
抱水クロラールは、トリハロメタンと同様に水に含まれる有機物と塩素が反応してできる物質です。
毒性が高いとの報告があります。
※11 : 農薬類
殺虫剤や、除草剤などさまざまな用途に多くの種類の農薬が使われております。
一般的に売られている薬剤には、何種類かの農薬が混合されたものもあります。
農薬は種類が多く、毒性などがそれぞれ異なるため、物質の特定や評価が困難です。
今回、水道水に混入する可能性が高い農薬102種類についてそれぞれの目標値を設定し、総農薬方式という評価方法を採用しました。
これは、ある農薬Aの測定値を、Aの目標値で割り算し、これをAの評価値とします。
この作業を102種類の農薬全てで行い、102種類全ての評価値の合計が1以下という目標値を定めています。
※12 : 残留塩素
水道水に入れる塩素の残量のことです。
残留塩素は法令により0.1ミリグラムパーリットル以上確保することが義務付けられています。
上限は決まっていませんが、残留塩素が多いと水道水に塩素臭を与え、水の味を悪くします。
目標値は、水道水をおいしく保つために定められました。
※13 : カルシウム、マグネシウム等(硬度)
硬度は、水質基準で石鹸の洗浄効果を損なわないために300ミリグラムパーリットルと定められていますが、硬度が高いとおいしく感じない人がいるため、硬度の量を10から100ミリグラムパーリットル以内に目標値が設定されています。
※14 : マンガン及びその化合物
マンガンの水質基準値は、水道水に黒い色を着けることを考慮して定められていますが、より質の高い水道水の供給を
目指すため基準値の5分の1が目標値として設定されています。
※15 : 遊離炭酸
水道水中の炭酸のことで、適度に含まれることにより、水に清涼感を与えます。
多量に含まれると刺激が強くなります。
※16 : 1,1,1-トリクロロエタン
1,1,1-トリクロロエタンは、ドライクリーニング洗浄剤、金属の洗浄剤として使われる有機化学物質です。
テトラクロロエチレンと同じ理由により地下水で多くの検出事例があります。
発がん性、毒性も低いのですが、水道水に甘いにおいを与えるため、水質基準項目のでしたが、近年、検出事例が少なくなったため水質管理目標設定項目になりました。
※17 : メチル-t-ブチルエーテル
MTBEと呼ばれ、ガソリンの添加剤として使われます。最近、地下水から一過的に高濃度で検出されることがあります。
目標値は、味やにおいに影響を与えることを考慮して設定されています。
※18 : 有機物等(過マンガン酸カリウム消費量)
有機物の指標として基準項目の「有機物」とは別の測定法により求めた量。
水中の有機物などの量を一定の条件で酸化させるのに必要な過マンガン酸カリウムの量として表したものです。
※19 : 臭気強度(TON)
臭気強度とは、においの強さを数値化したものです。
※20 : 蒸発残留物
蒸発残留物の水質基準は、水の味を悪くしないことを考慮して定めていますが、水道水をおいしく保つための目標値として設定されています。
※21 : 濁度
濁度の水質基準は、水道水が肉眼でほとんど濁りを感じないことを考慮して定められていますが、より質の高い水道水の供給を目指すため基準値の2分の1が目標値として設定されています。
※22 : PH値
給水管には、一部材質が鉛や鉄の物がありますが、水道水が酸性だと、この鉛や鉄が水道水中に溶け出しやすくなります。
水道水を弱アルカリ性にすることにより、鉛や鉄を溶け出しにくくすることができます。
※23 : 腐食性(ランゲリア指数)
腐食性とは、物を溶かす力のことで、この度合いをPH値等の水質データから数値化したものがランゲリア指数です。
腐食性を小さくする目的で、ランゲリア指数の目標値が設定されています。
※24 : 従属栄養細菌
従属栄養細菌は、地球上に広く分布し、種類によっては病気を起こす病気体もありますが、乳酸菌や納豆菌のように多くはヒトや動物にとって不可欠で有用な細菌でもあります。
従属栄養細菌の数を調べることにより、水道水の消毒が適正に行われているかがわかります。
※25 : 1,1-ジクロロエチレン
平成21年の水質基準改正により、水質管理目標設定項目に移行しました。
1,1-ジクロロエチレンは、家庭用ラップ、食品包装用フィルム樹脂の材料として使われている揮発性の有機化学物質です。
地下水で多くの検出例があり、発ガン性の高い物質です。
目標値は、毒性を考慮して設定されています。
※26 : アルミニウム及びその化合物
水質基準項目においても0.2ミリグラムパーリットル以下と定められていることに加え、将来の基準改正をにらみ、0.1ミリグラムパーリットル以下という管理目標値が設定されました。
※27 : ぺルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)
有機フッ素化合物の一種で、撥水・撥油性、化学的安定性等の物性を示すため、幅広い用途で使われてきました。
しかし、難分解性、高蓄積性、長距離移動性という性質があり、PFOSは2010年から、PFOAは2021年から国内での製造・輸入等が原則禁止されています。